魅惑への助走
 「……最高の復讐劇、か」


 そんなことを妄想しながら帰宅した。


 梨本さんと話し込んでしまい、家に着いたらもう夕方六時くらいだった。


 六月は夕暮れが遅いけど、この日は雨降りだったためすでに薄暗い。


 葛城さんは七時くらいに帰宅するらしい。


 知り合いから仙台の牛タンが送られてきたので、この日は外食はせず自宅の七輪で牛タンを焼いて食べる予定だった。


 「バッドエンドは、梨本さんの指示で絶対没にはされるけど……」


 七輪の準備をしている間も、あれこれ妄想。


 上杉くんに復讐される自分を予想していた。


 刺されて即死したほうが、むしろ楽かもしれない。


 向こうが社会的権力を保持して、じわじわ痛めつけられるほうが絶対に苦しい。


 静かに殺されるようなもの。


 ただ、司法試験に合格したとして、上杉くんは最速でもまだ研修中の身だと予想される。


 社会的権力を握るのはまだ十年以上先の話なので、当面の危機ではないのは明白。


 今から怯える必要もないと、まずは夕食の準備に励んだ。
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