魅惑への助走
 「……」


 私は久しぶりに、SWEET LOVE本社ビル近くまで来ていた。


 偶然通りかかったわけではない。


 わざわざ電車を乗り継いで訪れたのだ。


 何のために?


 ……AV作品の題材に、私のネタを使うのはやめてほしいと言いたい気持ちはあった。


 だけど今さら顔向けしづらいのも事実。


 後ろ足で砂を掛けるような辞め方をしてしまったため、SWEET LOVE関係者と顔を合わせるのは非常に気まずい。


 上杉くんとはそれ以上だ。


 別れただけではなく、付き合っていた末期からすでに私の裏切が始まっていたことを気付いてしまっている。


 知っているからこそ、自身の主演するAVのネタに私がモデルである人物を登場させるという復讐を実施している。


 勇気を出して直接電話をかけ、これ以上の復讐劇をやめさせようとも考えた。


 しかしすでに昔の携帯電話は処分してしまったので、もはや連絡先は分からない。


 第一向こうもすでに、連絡先が変わっている可能性も高い。


 他の手段は、SWEET LOVEと直接連絡を取るくらいしか。


 オフィシャルサイトに電話番号やメールアドレスは掲載されているものの……、躊躇してしまった。
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