魅惑への助走
 どうするべきか決めあぐねて、私はふらふらと自宅を出て、SWEET LOVE本社付近までやって来てしまった。


 働いていた頃と辺りはあまり変わっていないようで、馴染みのコンビニが別の店入れ替わっていたり、古いビルが新しくなっていたりというのがちらほらと。


 平日の昼過ぎ。


 オフィス街を行き交うのは、営業職っぽいスーツ姿の人たちが多い。


 真夏の午後は太陽が容赦なくアスファルトに照り付け、皆汗を拭いながら歩き回っている。


 私は物陰から、SWEET LOVEが入っているビルを眺めていた。


 以前と同じ場所。


 この時間帯は撮影などで、関係者は外に出ている確率が高い。


 私の後釜として、新しいスタッフは入社したのだろうか。


 いきなり辞めると言い出したため、私が辞めるまでの間に新しいスタッフは見つけられなかった。


 その後無事に見つかったのだろうかと考えるだけで、後ろめたい気持ちに再び包まれる。


 あんなに急に退職を申し出るなんて、今振り返れば非常識極まりない行為だったと思う。


 にもかかわらずあの当時は、自分のことだけで頭がいっぱいだった。
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