魅惑への助走
 「榊原さん、スポーツドリンク買ってきました」


 「ありがとう。次はきれいなバケツに水を汲んできてもらえないかな。あと未使用タオルも何枚か用意して」


 「了解です!」


 バイトの子があれこれ揃えている間に、榊原先輩は500ミリリットルのペットボトルを私の口元へと運んだ。


 その際対処法に従って、私の腰のベルトを緩めた。


 「すみません……」


 徐々に意識を回復しつつあった私は、先輩に詫びた。


 「今日はとりわけ暑かったからね……。まずは飲んで水分補給して」


 言われるがままにペットボトルを口にした。


 ゆっくり目を開くと、事務所の壁には大きなポスターが。


 佐藤剣身があざ笑うような目つきでこちらを見ている。


 そこには「Vengeance」の文字が。


 「不義理を働いた上に……、何年もご無沙汰した挙句、いきなりこんな形で迷惑をかけてしまい、本当にすみません。私……」


 重ねて先輩に詫びた。


 「込み入った話は後にしましょう。今は体調回復が第一優先」


 痙攣を起こしたり嘔吐したら、もはや素人の手に負える領域ではないため、救急車を呼ぶしかない。


 だけどこの日の私は軽度だったため、しばらくSWEET LOVE内ソファーで横たわっているうちに、ゆっくりと体調は回復していった。
< 602 / 679 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop