魅惑への助走
 「……そりゃどーも」


 素っ気ない一言を口にして、佐藤剣身は私の横を通り過ぎ、オフィスの奥へと入っていった。


 目を合わせることなく。


 面影には上杉くんのものが残っているものの、佐藤剣身となった今、何もかもが変わっている。


 佐藤剣身。


 SWEET LOVE初の専属男優で、人気急上昇中のAV男優。


 そして何より……私の元カレ。


 私が裏切って捨てた人。


 ……あれからかなりの時間が流れた。


 何かに導かれるかのように再びSWEET LOVEに足を踏み入れた私の前に、AV男優・佐藤剣身となった上杉くんが現れた。


 別人として生まれ変わった姿で。


 当時の穏かな微笑みは完全に消え失せ、私に向けられるのは冷たすぎる視線。


 しかも一瞥しただけで、背を向けて去っていった。


 裏切ったのは私のほうとはいえ……。


 「明美ちゃん、また顔色が」


 突然の再会に動揺して、再び目の前がくらくらしてきた。


 「平気です。もうタクシー来てますし帰ります」


 一人では足取りもおぼつかなくて、エレベーターを降り一階玄関先まで榊原先輩に送ってもらった。
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