魅惑への助走
 もしもSWEET LOVEとの縁がなければ。


 私はずるい大人たちにおもちゃにされたままで、肝心の小説も結局芽が出ないまま、身も心もボロボロになっていたかもしれない。


 あの時覚悟を決めて、本当によかったと思う。


 私と同様上杉くんも、もう他に生きる道をなくしてしまい、最後の手段としてSWEET LOVEの扉を開いた。


 AV男優となるために。


 とはいえAV男優とは、誰でも気軽になれるような職業ではない。


 巷では、AV女優と好きなだけ性行為をできる羨ましい仕事と思われている節もあるけれど。


 ライトを浴びながら、スタッフに囲まれ肌を晒すその行為は、羞恥心の全てを捨て去らないと無理かもしれない。


 ただ楽しむためだけにこなすことができる性行為とは異なり、第三者に見せるために行なうそれは想像以上に困難を伴う仕事であり。


 自分の思うがままに快楽をコントロールできない性行為は、拷問にすらなりうるものだ。


 加えてAV男優という職業に対しては、世間ではかなりの偏見が存在するため。


 家族のみならず親戚関係、友人知人、学校や職場とのつながりも失ってしまうことが多い。


 にもかかわらず上杉くんは……。
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