魅惑への助走
 「えっ」


 榊原先輩の唐突な申し出。


 先ほど私が先輩に佐藤剣身の整形について問いかけた際、先輩はたいそう驚いたけれど、今の私のほうがよっぽどびっくりした顔をしていると思う。


 「いくら本を出してもらえるとはいっても、上からのお達しで不本意な作品を出版するくらいなら。もう一度うちに戻って思う存分好きな作品を作ってみない?」


 私の動揺を見て、先輩はさらに続ける。


 「そりゃうちだって、できる限りいいものを作りたいから。事前の打ち合わせである程度の方向性は決めてかからなきゃならないけど。常に新たなアイディアが望まれる状態だから。また明美ちゃんに関わってもらえたらとても助かるかも」


 「ですが……」


 当然私は戸惑う。


 かつて一方的に足を洗った業界に、何事もなかったかのように舞い戻るなんて無理。


 私以上に松平社長は、絶対に面白くは感じないはず。


 ブランクを作ってしまった私に、今さら面白い作品なんて作ることはできないと思われる。


 そして、最大の理由。


 葛城さんが私のAV業界復帰など、絶対に認めないだろう。
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