魅惑への助走
 かつてはプロ野球選手を目指していた葛城さんが、ケガによる挫折を経て、新たに掴んだ夢が「プロサッカーチームのオーナーになること」。


 その夢のためにコツコツ仕事を頑張って、社会的な成功も収めお金も溜まった。


 夢への計画を語る葛城さんを見つめているのが好きで、憧れたのが結婚の動機の一つ。


 今こそいよいよ夢の実現へと、最終段階に突入してきたタイミング。


 ここに来て私が余計なことをして、葛城さんの夢を摘むようなことをするわけにはいかないのだ。


 健全性と潔癖性が求められるクラブチームのオーナーの妻が、いかがわしい仕事をしている……アダルトビデオを製作しているなんて噂が広まれば、それがきっかけでオーナー就任を否決される危険性が今のところ高い。


 残念ながらそれが、世の通念だ。


 「どうしても明美が復帰したいなら……、俺たち別れるしかないのが実情かも。そんなの俺だって嫌だし。……明美だって無理だろ?」


 私は葛城さんから離れられない。


 金銭面など、生きていく術の大部分を葛城さんに依存しているのもあるけれど。


 体が……葛城さんと離れてなど生きてはいけないということを十分に承知している。
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