魅惑への助走
 撮影に関わった人たちのみならず、それ以外の関係者も何人か打ち上げに顔を出した。


 「もしかして……明美ちゃん? 久しぶり。元気だった?」


 私と面識のあった人たちが、入れ替わり立ち代わり挨拶に訪れる。


 「全然ブランクを感じない。明日から一緒に働きたいくらい」


 榊原先輩が私の復帰を強く推す。


 私が逃げるようにSWEET LOVEを退社してから、二人分の業務を一人でこなしてきた先輩。


 一時は私の復帰はもうないものとみなし、新人を受け入れて後継者として育てる計画もあったらしい。


 しかしなかなか適任者を見つけられずにいるうちに、こうして私との突然の再会。


 能力が未だ錆び付いていないとみなし、私に復帰してほしいとの思いがいっそう強まったようだ。


 その後も辺りは賑やかな雰囲気のままだった。


 ……ただ一人、一切私との接触を避け続けている人物がいた。


 佐藤剣身。


 この場の主役。


 私の元カレ。
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