魅惑への助走
 ただし。


 佐藤剣身が私の元カレであり、その元カレがAV男優として活躍しており、撮影現場を私が見学した……という事実はすんなり受け入れられたのだけど。


 私が愛した上杉くんが、私の目の前で別の女を抱いている現場を目撃するのは……。


 やはり胸が痛む。


 私以外の女を知らず、経験もなく、私に導かれるがままに女というものを知っていった上杉くんが、性と自らの肉体を売り物にするAV男優という職業を選び。


 撮影の度に新たに女と関係を持つ。


 平均的にAV男優は、長く活動すれば数百人どころか数千人の相手と性交渉を行なうことになるので。


 佐藤剣身もこのまま活躍を続ければ、いずれ……。


 「嫌!」


 今さら私に止める権利などない。


 ただ……どんどん私の手の届かない存在になってしまうのは、やはり怖かった。


 このままでは……。
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