魅惑への助走
***


 「留守中、お利口にしていたかな?」


 葛城さんが出張から帰宅した。


 食事は済ませて来るとの連絡だったので、帰宅後はすぐにお風呂に入って、それから少し話をしたかったのだけど。


 「十日近く離れてたから、寂しかったよ」


 すぐに抱きしめられた。


 言われて見れば、こんなに長い間離れて過ごしたのは、結婚後初めてのことかもしれない。


 会いたくても会えずにいた日々を埋めるかのように、口づけを繰り返し。


 そのまま互いの肌を重ね、会えなかった日々の分まで求め合おうとするのだけど……。


 「待って」


 私は葛城さんを止めた。


 「どうしたの?」


 「……その前に、話し合いたいことが」


 「言葉なんていらないよ。今はこうしていたい」


 背中から伸びてきた手が、私の胸に触れる。


 「待って。本当に……」


 このままではただ流されてしまいそうで、必死で食い止める。


 「どうした? まさか……」


 葛城さんは私が拒否するのは、もしかしたら妊娠したからなのかと考えたようで、そっと私の腹部に手を触れた。
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