魅惑への助走
 「できることならば、閉じ込めてでも一生そばに置いておきたかった。だけどそれは、明美が羽ばたくべき翼を永遠に封印させてしまうことでもある……」


 今のまま、私が人気携帯小説家というポジション、そして葛城さんの妻というセレブな日々に満足して、本当への夢への未練を忘れ去ってしまうよう葛城さんは望んでいた。


 もしかしたらあの時、佐藤剣身の存在に気付かないままだったら……。


 何事もなく今の生活は続いていったのかもしれない。


 「ごめんなさい……」


 あやまるしかできなかった。


 私がわがままを通す限り、いずれにしても葛城さんには迷惑をかけてしまう。


 「本当に追いかけたい夢をあきらめて、牙を失くした猛獣のように折の中で寂しく生きる姿は、明美に相応しくない。第一そんなの、俺が手に入れたいと思った明美なんかじゃない」


 葛城さんは私に寄り添い、そっと髪を撫でてくれた。


 「ごめんなさい……」


 再度詫びる。


 「今日明日と一刻を争う必要はないだろ? 少しお互い考えようか。その間に俺も、最善の解決策を見つけ出すから」


 籍を抜こうという私の提案に、葛城さんは反対しなかった。
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