魅惑への助走
 甘く、その腕に抱かれた。


 少し前まで離婚について話し合っていたことなど、まるで別世界の出来事のよう。


 「最終的な結論が出るまでは、俺だけの明美のままでいて」


 私が離婚という手段を持ち出したのは、葛城さんが嫌いになったからではない。


 いや、気持ちは今も何も変わらない。


 別れを決めたのはお互いの夢を叶えるため、そのためには互いの存在が障壁となってしまうから。


 今のままの日々を続けて、お互い夢をあきらめ後から悔やむばかりか傷つけ合うくらいならば。


 互いの想いをそのままにしたまま、そっと離れていったほうがいいと判断した。


 ……できればずっとこうしていたいという甘えもある。


 私の奥へと刻みつけられる刺激の一つ一つが、指先から爪先まで浸透していき、体中が満たされる。


 何も変わらない毎日がこのまま続いても、別に構わないとすら感じる。


 しかし。


 絶え間ない快感のほんの一瞬の隙に、SWEET LOVEの撮影現場で体験した充実感がフラッシュバックする。


 やはりあの気持ちは、どんなに快感で上書きしようとしても消し去ることなどできないのだと確信する……。
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