公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
眉間に刻んだ皺に深い憂慮を表して、侯爵は舞台の下を歩き、ジェイル様の真正面で足を止めた。
「娘の非礼は詫びましょう。ですが、我々の側に話などありません。ルイーザの顔色が悪いので、今日はこれにて失礼させていただきます」
逃げるつもりなのね……。
そう捉えた私は、侯爵の狙いを見定めようと、その厚顔をじっと見据えていた。
ワインに毒を入れたのは侯爵だ。
アクベス家の執事になんらかの指示を与えにいったとジェイル様は言っていたが、それはきっと屋敷に戻って毒を持ってくるようにという指示だったのだろう。
毒を手に入れた侯爵は座長を騙くらかし、舞台の演出を変えさせた。
ルイーザ嬢に指示して私に毒入りのワイングラスが渡るようにし、この場で排除しようと企んだのだ。
それは焦っていたからに違いない。
『もうじき分かることです。あなたも国王陛下も諸侯らも』
私が辺境伯の娘とは本当なのかと問いただした侯爵に、ジェイル様はそのように答えたと言った。
公にされないうちに早く始末してしまおうと企んだのだろうが、それさえもジェイル様の思惑のうちにあったことで、アクベス侯爵はまんまと罠にはめられた。
別室でジェイル様と話し合えば、暗殺未遂について追及され、それを秘密にすることと引き換えになんらかの取引を持ちかけてくるだろうことは想像に容易い。
だから、今日のところは引き揚げようとしている。
今回の件は、有耶無耶にして終わらせたい。
暗殺計画は練り直しだ……侯爵がそう考えているのではないかと、私は冷静に推測していた。