公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
周囲はこちらを気にしながらも、賑やかさを取り戻しつつあった。
おかしくなった場の雰囲気を早く修復したいと、誰もが思っていたのだろう。
カードゲームや玉突き、婦人同士のお喋りにと、娯楽に戻り出した招待客を接待するため、国王と王妃も私たちに背を向け、元の持ち場へと歩き出していた。
「ルイーザ、国王陛下と王妃殿下にご挨拶申し上げ、今日のところは帰るぞ」
アクベス侯爵はジロリと私たちをひと睨みしてから、舞台を降りたルイーザ嬢を連れて、歩き出している。
そこに侯爵夫人が加わり、三人の後ろ姿が離れていくのを見ながら、「帰らせていいの?」と私は隣に聞いた。
すると彼は「逃すわけないだろ」とニヤリと口の端を吊り上げ、膝丈ほどの高さの舞台から飛び降りた。
「アクベス侯爵」
呼び止められた侯爵は、一応足を止めたが、肩越しに振り向いて眉をしかめる。
「話すことはありませんぞ」
「そのままお帰りになられてよろしいのですか? クレアのワインになにが入れられていたのか、あなたはご存知のはずでしょうに」
「はて、なんのことやら」
「お忘れになられたのなら、思い出させて差し上げましょう。私が吐き出したワインはハンカチに染み込ませてあります。そこにあるガラス鉢にハンカチを入れてみましょうか? 国王陛下ご夫妻の目の前で」