公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
手の中の銀貨とドリスに、視線を一往復させて考える。
ドリスは今、『銀貨の一枚くらい』と言い間違えた。
ということはきっと、宿泊客からのチップは一枚で、もう一枚はドリスが自分の財布から出してくれたということだろう。
小さな古宿の苦しい財政状況は知っている。
きちんと毎月給料をもらえるだけでありがたいのに、ドリスのお金までもらえない。
調理台に近づいて「一枚返すわ」と差し出すも、ドリスは受け取ってくれずにじゃがいもの皮剥きを再開してしまう。
「いいから、もらっときな。クレアが危ないことをして得た金より、まともな金だよ。それで今日の分は買えるかい?」
「今日だけじゃなく、明日の分も買えそうよ。
ドリス……ありがとう!」
畳んだシーツや枕カバーをリネン庫の棚にしまった後は、休憩に入らせてもらう。
「行ってきます」とドリスに声をかけてから、宿を出た。
小道を何本か折れて町のメインストリートに出ると、金持ちしか利用しないような物価の高い小綺麗な店が軒を連ねている。
その中の宝石店の、正面玄関ではなく、真裏にある簡素な扉を開けて入ると、そこは質屋。
先ほど、兵士の男に贈られたばかりのカメオのブローチを早速お金に換えた。