公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
「来い」と言われて歩き出し、執務机の二歩手前で足を止め、机を挟んで彼と向かい合う。
「晩餐の料理を勝手に作ったそうだな」と、冷たい声で想定通りの言葉をかけられ、私は用意していた返事を口にする。
「調理人には秘密にしてと言ったのに、彼らは正直ね。余計なことをしてごめんなさい。でも私、ジェイル様のためになにかしたかったの。あなたは私を遠ざけるから、せめてこっそり料理を作って食べてもらいたかったのよ」
殊勝な態度で弁明してからわざと目を泳がせ、困っているように見せかけた。
厨房でも似たような態度を取って見せたが、調理人たちはあっさりと騙されて、すぐに許してくれた。
ジェイル様も私をいじらしく思い、怒りを解いてくれるのでは……そう考えていたのに、「嘘つきめ」と見破られてしまった。
彼はおもむろに立ち上がると、執務机を回って私の前に来た。
いつもの黒い丈長の上着を脱いで、シルクのブラウスと黒いズボンという装いの彼。
襟元のジャボットもブローチもなく、上級貴族の彼にしては簡素な身なりをしていた。
それでも気高い迫力を失わないのは、彼自身に染みついている貴族的な品格によるものなのか……。