公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
僅か半歩の距離から睨むように見下ろされては、気圧されそうになる。
それに耐えて足を引かずに強気な視線をぶつけていたら、「扱いにくい女だ」と、彼は溜め息まじりに呟く。
それから、瞳の厳しさをいくらか和らげてくれた。
「俺を騙せると思うなよ。お前が料理したことを、最初から俺に気づかせる算段だったのだろう? ゴラス風のパンを焼いたのだからな。
さしずめ俺に叱られたくて勝手に料理したというところか。こうしてふたりになる時間を作るために」
言い当てられて、内心驚いていた。
私の企みに気づいていながら、こうして執務室に入れてくれたことも予想外だ。
しかし、驚きはしても慌てることはなかった。
彼のプライベートな空間でふたりきりになるという、望んだ結果が得られたのだから、なにも不都合はない……そう考える私の口元は、緩やかな弧を描いていた。
私が微笑したことに気分を害したのか、ジェイル様はまた少し瞳の厳しさを取り戻し、男らしくも繊細な指で私の顎をすくい上げた。
じっと探るように私の目を覗き込み、フンと鼻を鳴らす。