海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
走り出した車の中で、ふと思った事がある。


『卒業後の今、相葉先生と二人になったら話題に困るのだろうか』


と、いう事だった。



私が知っている世界が、高校の中の出来事だけだった事が分かったから。


見た事も、聞いた事も、感じた事も、人とのコミュニケーションも、全てが高校の中だった。


その場所を離れた今となっては、


『いくら相手が相葉先生でも、今のような自分になってしまうのかもしれない。』


一瞬、そんな不安が過ぎってしまったけれど、


『お互いに違う生活の中でも、相葉先生とだったら変に困ったり、焦ったりしないで話せるはず。』


そんな全く根拠の無い自信が、いっぺんに不安を打ち消した。


打ち消した途端、


『いくら相葉先生と話が出来たとしても、そんな日は来ない。』


『相葉先生の事を考えちゃいけない。』


すぐにそう、私は思い直した。



私の心の中では、相葉先生への想いがいつまでも揺れていた―…




「…河原さん?」


青山先生からの呼び掛けにはっと気付くと、私は窓の外をぼんやりと眺めていたらしく、



「あ、はいっ。」


慌てて、隣にいる青山先生を見た。



「疲れちゃった?」


青山先生の一言で、その時の私の態度が“つまらない”と言っているようなものだったと気付いて、申し訳ない気持ちと焦りに駆られた。


青山先生に不自然に思われない程度に明るく、


「いえ!全然!…っていうか、“河原”でいいですよ。“さん”はいらないです。」


と、笑った。


内心、


『青山先生に“河原”でいいですよ、なんて言ってしまったけれど、不自然だったかな?大丈夫かな?大丈夫だよね?』


青山先生と合流してからずっと、心の中で何度もちょっとした“会議”が行われたのは、


この日が私にとって、初めてのデートらしき出来事だったからなのかな。
< 263 / 446 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop