海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
1年が経ち、季節は春。


19歳の春―…



相葉先生の事を忘れて、新しい恋に進もうと無我夢中で過ごしてきた18歳という時間は、私にとって意味があったのだろうか。


『もしかしたらとても無意味で、無駄な時間の過ごし方をしたのかもしれない。』


『ただ単に、苦しい時間を過ごしてきただけなのかもしれない。』


そんな風に思う事が時々あったけれど、


この時間があったからこそ、私には相葉先生しかいなくて、


ずっと一緒にいて欲しい人は、相葉先生ただ一人だけなんだって気付けたんだ。



『無意味じゃなかった。』


そう、思いたかった。




『相葉先生に会いたい。』


何度も何度もそう思ったけれど、1年間も交流がなかったせいで、私にとって会いに行く事も電話をする事も、今となっては高校生の頃以上に勇気がいることだった。


“1年”という時間が、こんなにも相葉先生との見えない距離を広げるなんて、思ってもいなかった。


私の心は完全にすくんでいた。


きっと、高校生の私なら迷わず電話をしていたのだろう。




「とにかくもう一度相葉先生に会いたいし、話がしたい。」


ある時、瑞穂にそんな自分の本心を言った。


「その方がいいと思うよ。頑張って!」


そう、瑞穂が励ましてくれたけれど、実際にどうしていいのか分からなくて、


初めの一歩が踏み出せないまま、時間ばかりが過ぎていく。




季節はどんどん過ぎて、あっという間に夏が終わろうとしていた―…


私の心はいつまでもすくんだまま。


全てが、何も変わっていなかった。



『もういい加減、勇気を出して相葉先生に電話をしてみよう。』


相葉先生に連絡をする事を心に決めて、私は自分を奮い立たせながら仕事から帰ってきた。


その日帰る頃に見た空は、まだ明るさの残る夕暮れの空だった。
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