海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
――――…

「もしもーし。」


私はマニキュアを塗る手を止めて、携帯の画面に表示された名前を見てから耳にあてた。


電話の主は瑞穂だった。



「さく、今度の土曜日ヒマ?」


瑞穂からのお誘いに、


「うん、暇だけど。どうしたの?」


私は携帯を耳にあてたまま、まだ途中だったマニキュアのボトルを閉めると、

瑞穂には聞こえないように既に塗り終わった爪に、フゥッと息を吹きかけた。


「最近知り合った友達から遊ぼうって連絡が来たんだ。隆二さんとカズくんっていう人なんだけどね、隆二さんが結構カッコイイの。1人で行くのは嫌だから付き合って欲しいの!お願い!」


瑞穂は興奮気味で一気にまくし立てた。


専門学校を卒業し、今は地元で働いている瑞穂は、私とは違う交友関係を広げていた。


ついさっき教えられたばかりの隆二さんとカズくんにも、私は会った事がない。



瑞穂が知り合ったばかりの人と遊ぶ時に、こうして「一緒に行こう」と誘ってくれる事が今までにも何度かあった。


散々お世話になった瑞穂のお願いだから、聞かないわけにはいかない。



「分かった。いいよ、行こう?」


「ありがとう!土曜日の19時に待ち合わせなんだ。18時半頃、さくの家に行くね。」


私の快い返事に、瑞穂の嬉しそうに弾む声が返ってきた。



「うん、分かった。待ってる。」


「じゃあ、またね!」


「うん、またね。」


そう言って、私は電話を切った。




これが水曜日の夜の出来事だった。



…そして今、私は瑞穂が迎えに来るのを、心なしかソワソワしながら待っていた。
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