難攻不落な彼に口説かれたら
「雪乃が落ち着くまでいるよ」

仁は私の目を見てそう言うと、私の頭を優しく撫でた。

十分くらいそうしていただろうか。

ようやく落ち着きを取り戻すと、仁には帰るように言われたけど、残ってた仕事を片付ける。

居室にいなかった小野寺君のことが少し気になったけど、考えないようにした。

パソコンの電源を落として席を立つと、横で仕事をしていた仁と目が合う。

「中村さん、雨もひどくなってきたし、送っていくよ」

周囲にいる社員を気にしてか、仁は名字で呼ぶ。

「片岡君は接待あるんだから、気を使わないで。大丈夫だから」

咄嗟に笑顔を取り繕う。

「階段で転んだりしないでよ」

仁が私をからかって元気づけようとする。

彼は他の社員には気づかれないように、一瞬だったけど私の手をギュッと握った。
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