難攻不落な彼に口説かれたら
「気をつけます。じゃあ、また明日」

仁の手が離れると、彼に手を振った。

離したくなかった仁の手。

本音を言えば彼と一緒にいたいけど、わがままは言えない。

仁にだって仕事がある。

困らせたくはない。

うまく笑えただろうか?

そんなことを思いながら彼と別れて居室を出ると、秀兄とすれ違った。

「小野寺のことは心配するな。来年から違う部署に行かせる。お前、大丈夫か?」

「少しびっくりしただけ。今日はこれで帰るね」

力なく笑って言うと、会社を後にした。

仁も言ってたけど、外は土砂降りの雨で、傘をさしても駅に着くまでにパンプスも水浸し。

「今日は……厄日かも」

自嘲気味に呟いて、電車に乗る。

遅延していたのか電車は混んでいた。

だが、前回の教訓もあって痴漢に遭わないよう座席側に立つ。
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