難攻不落な彼に口説かれたら
「雪乃は泣き虫だね」

困ったように笑って、仁は私の涙を指で拭う。

そんな彼への好きって気持ちが溢れてきて……。

「……仁」

仁の名前を口にすると、自分から顔を近づけて彼にキスをする。

触れたその唇は温かかった。

自分から仁にキスは滅多にしなくて……。

「雪乃?」

仁は目を見開いて驚いた顔をしたけど、すぐに甘い顔になって私の頰を優しく撫でた。

彼は、私に温かいものをたくさんくれる。



その年の二月のある日、仁のマンションで夕飯の支度をしていると、彼が帰ってきた。

「ただいま〜」

コートを脱ぎながら仁がキッチンにやってくる。

「お帰り〜。今日はビーフシチューだよ」

「いいね。着替えたら手伝うよ」
< 268 / 294 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop