例えば君に恋しても
「お待たせして申し訳ございません。」
いつの間にか到着していた乗用車から、峯岸さんが姿を現した。
「綾瀬さん、お久しぶりですね」
にっこり頬笑むその笑顔は変わらない。
「お久しぶりです。」
運転は秘書の方じゃなかったんだ・・・。
軽く頭を下げながら考えていると
「遅い!待ちくたびれて死にかけてた」といつも通りの仁がずかずか後部座席に乗り込む。
「ええ。仁様が会社にいないことで、みんな大忙しみたいですからね、あなたの秘書が血相変えて私に電話をくれました。」
注意するときもやんわりと優しい。
甘やかしてるからそんな性格になったんでしょ。
面白くない気分で仁の隣に座ると、峯岸さんがドアを閉めてくれる。
「行き先はどちらですか?」
エンジンをかけながらミラー越しに仁を見る。
仁は単調な声色で「水族館」そう言うなり、腕を組み目を閉じる。
寝るつもりなのだろうか・・・?
「すみませんね。仁様は最近とてもお疲れの様子で、たまの羽休みにお付き合い下さりありがとうございます。」
車を走らせ峯岸さんは仁の睡眠の邪魔にならないように小さな声で囁いた。
悪いことばかり考えて疲れてるだけでしょ?
呆れながら肩をすくませると
寝息をたて始めた仁の頭が私の肩に寄りかかる。
「仁ってちゃんと仕事してるんですか?」