例えば君に恋しても
こんな通りすがりの人にさえ心配されてしまうほど、行き詰まった表情をしていたことに気づいた私は、咄嗟に笑顔を作るも
大丈夫よ。の一言が言えずに飲み込んだ。
自販機で飲み物を買った彼が私にお茶を1本差し出すと、時間に余裕があるのか私の横に腰を下ろした。
「今日も蒸し暑いですからね。体調悪くなっちゃいました?」
彼の気遣いに首を横に振るのが精一杯で
鳴らない携帯を見詰めてるうちに、胸が張り裂けそうな気持ちになって
感情に負けた私は、ブライドさえどうでも良くて、ぽろぽろ涙を落としながら、見ず知らずの他人に事情を説明していた。
私の話を最後まで黙って聞いていた彼は「安否を確認したいなら、婚約者さんの事務所に連絡をしてみればいい。けど、問題はそんなことじゃないと思うけどね?」と、真面目な顔で呟いた。
私は小首を傾げながらも、瑛士さんと知り合ったばかりの頃に名刺を貰っていたことを思いだし慌ててバッグの中から名刺入れを取り出すと膝の上にばら蒔いた。
その中から確かに朝倉法律事務所と書かれた瑛士さんの名刺を見つける。
「あった。これが彼の名刺だわ」
笑顔で隣の彼を振り返るも、その表情は厳しいままピクリともしない。
そんなことは無視して名刺に書かれた事務所の電話番号に電話をかけたのと同時に
隣の彼が「問題はそんなことじゃない」と言った言葉の意味を知らされることになった。