Dance in the rain
8. 送り梅雨②
何が何だかわからないうちに、撮影は終わっていて。
着替えを終えたあたしは、スタジオの隅のパイプ椅子に座りこんで放心状態になっていた。

オーディションより緊張したぁ……。

「お疲れさん。さんきゅな。助かった」
残りの撮影を終えたらしい翔也が、隣に座って笑顔を向けてくる。
そしてくしゃくしゃって、あたしの髪をかき回した。

う。
途端に、許してやるかって思うあたり、かなり毒されてる気がする……。

「よかったよ〜2人とも! ほんとにお疲れ様!」
日下さんが小走りで近寄ってきて、パチパチ両手を打ち鳴らす。

「花梨ちゃんも、ありがとう! いいカットが撮れたよ!」
「あ……はい。お疲れ様でした」

疲れたけど……みんな喜んでくれてるし、よかったのかも。
ほっとあたしが息を吐いた時だった。

「日下さん」
翔也が口を開いた。

「ん?」
「今日、このままこいつでウェブ用の動画も、撮っちゃいませんか?」
こいつ、の所であたしを指しながら言う。

は……?
何?

混乱するあたしの目の前で、みるみるうちに日下さんの顔がほころんでいく。

「翔也っ! ようやくやる気になってくれたんだねっ! 俺はうれしいよ!! もちろんいいとも! さっそくやろう! 今すぐやろうっ!」
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