Dance in the rain

想定外の言葉に、あたしの思考は一瞬ストップした。

え。感謝? ……って、言った?
えっと……何で? どういうこと?

「タレントにとって恋愛の9割はトラブルしか生まない、それが私の持論よ。だから本来、こういう場合は反対することの方が多いんだけど……」

あたしの疑問を予想していたみたいにすらすらって、
潤子さんが続ける。

「最近の翔也って、すごく落ち着いてるのよね。今までじゃちょっと考えられないくらいに。スタッフの間でも、噂になってるわ。一体何があったんだろうって」

そして、テーブルに身を乗り出した。
「あなたのせいよね、それって」

あたしの、せい……?
「それは……どうでしょう……?」
だって、あたしは……ただの野良猫だし。

当惑するわたしに構わず、「だから思ったの」と彼女は続けた。

「あなたたちなら、”残りの1割”になれるだろうって」
「残りの、1割……」

「それでね」
口調が改まって、そこにはわずかに張りつめた何かが、宿っていた。

「あなたから彼を説得してくれないかしら。あなたの言葉なら、きっと翔也も聞くと思うの」

「……説得?」
何の、話?

「彼の、パリ行きを」
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