Dance in the rain
「や、いやその、……それは、ないけど」
「オレのことは詮索禁止な。そういうめんどくさいの、好きじゃないから」
はぁ。なるほど。
「わ、わかった……えっと、翔也サン」
「翔也でいい。オレも花梨て呼ぶから。それでいいだろ」
花梨。
呼び捨てにされた自分の名前が、なんとなく耳慣れない言葉に聞こえて、焦った。
パタン——
彼が消えたドアを、見つめる。
あんな奴、今まで会ったことがない。
どう反応していいのかわかんない。
でも。とにかく……二度も助けられてしまったことは確か。
あたしは窓に近づいた。
黒い画用紙を貼りつけたみたいに塗りつぶされたガラスに、
不安そうなカオをした女の子が映ってる。
いくつもいくつも、雨粒がぶちあたって、流れ落ちて。
その顔が、歪んでいく。
これから……どうしよう。
雨は、まだ止む気配を見せなかった。