Dance in the rain

背中でかすかにドアベルの音がして。 “Closed”のプレートにも構うことなく、無遠慮な足音が店内へ。それは……

「あ、いらっしゃい翔也」
「ん」
今夜も翔也がやってきた。
実は彼と仁科兄弟は実家がお隣同士。いわゆる幼馴染なんだそうで。

腐れ縁、って翔也は言ってたけど。
なんだかんだいって相性がいいのか、“雨音”で夕食をごちそうになって帰宅っていうのが、翔也のルーティンらしい。
それを知ったあたしは、ドキリとした。

じゃあ最初の日、あたしが生姜焼きを作った時、もしかしてもう夕食食べた後だったの? って気づいたから。

『“雨音”に寄ってきた』って言ってたし……可能性は高い。
でも、食べてくれた、よね?
おいしいって……言ってはくれなかったけど、でも、完食してくれた。

あたしはチラっと、左隣に腰をおろした翔也に視線を走らせた。

口は悪いし、自分勝手なオレ様だし……
でもこの頃、時々やってくる通り雨みたいな彼の優しさが、あたしを揺さぶる。
なんだろう……この気持ちは。
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