溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
そのとき、ふいに耳の奥に、低い声が蘇った。
『ホント、馬鹿な女だな』
あーあ……甲斐の言う通りなのかもしれない。
理一のためを思って尽くしてきた結果がこれだもんね。
そういえば、ここ一年くらい夜の生活どころかキスすらしていなかった気がする。どうも心が乾いてるわけだ。
「……っ、う」
心は乾いているくせに、体の中にはまだ水分があるらしい。ぽろぽろとこぼれた涙が、足元のアスファルトを濡らした。
親や友達の反対を押し切って理一と上京したため、地元にも帰れない。
帰る場所がないって切ないな……。帰る、場所。
『帰るぞ、犬小屋に』
そういえば甲斐はそんなことも言っていたっけ。
犬小屋……なんだか今の私にはぴったりな響きだな。 といっても、本当は豪華なマンションなんだろうけど……。
私は再びバッグからスマホを出し、電話帳から甲斐蓮人の名前を出してぼんやり眺めた。
ペットとか飼うとかそういう発言がたとえ気まぐれだったとしても、アイツの言っていたことをそのまま返してやれば、家に置いてもらえるだろうか。
そもそも今日はアイツのせいで、いろんな予定が狂ったのだから。
「責任、とってよ……」
私は涙声で呟き、呼び出し音の鳴るスマホを耳に当てた。