もう泣いてもいいよね
夕暮れから夜へ変わる景色をぼーっと眺めていた。

ふと、後ろが明るくなったのに気が付いた。

振り返ると、香澄がアウトドア用のランプをつけていた。

「こんなに暗かったんだ」

「そうね。景色に見とれてたね」


「ヒマだ…」

タケルがごろんと横になって言った。

「トランプでもする?」

香澄がデイパックから取り出して見せた。

「お!いいじゃん。やろうぜ」

タケルがむくっと起き出すと、香澄のそばに行って私を手招きした。

「しょうがないねぇ。一丁やるか」

私も腕まくりをしながら香澄のそばに座った。



「どっへぇー!!またおれの負け?」

タケルがジョーカーを軽く投げて後ろへひっくり返った。

「へっへ~。この暗さでよくきっちりとババを引くねえ。誉めてつかわす」

私はカードのなくなった両手を挙げて言った。

「もうババ抜きはやめ!次ページワンな!」

「はいはい」

香澄はため息をつきながらもカードを集めて切り始めた。


私は振り返って、窓から見える月を見た。

その形は、明日がいよいよ満月だということを告げていた。


「ねえ、ちょっと待った」

私は香澄の方に振り返った。

「なに?」


「香澄、何か歌ってくれない?」

「え?歌?」

「おお!」

タケルも興味をしめした。

「うん、香澄の作った歌。できれば、月に関係ありそうな」

私はまた満月に顔を戻して言った。


「月ねぇ…」

「お願い。香澄の歌声が聴きたい」

私は香澄の方を向いて両手を合わせた。

「わかった」
 
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