嘘つきな恋人
「今日はちょっと元気がない。」と三島さんが私の顔を覗く。

…なんでわかるんだろう?

「…今日、長く入院してる女の子に、
死んだらどこにいくんだと思う?って聞かれて、
上手く答えられなかった。
星になる。っていったけど、どうも私が信じてなくて…
嘘を付いてる気がしたの…」

と言うと三島さんは少し考えながら、

「俺の知り合いの奥さんは『死んだら桜の花になる』って言ってて、
周りの家族も、友人もそれを信じたんだよね。
…だからね、毎年花が咲いたら会いに来るって
奥さんが亡くなってから、知り合いは言ってたかな…
…死んだら好きなものになれるんじゃない?
俺はそう思ってる。
誰にもわからないんだから、それでよくない?」

と私の顔を見た。

「そっか。
…そうかも…」と言いながら、急に涙が出た。

長い間入院して、自分が死んだ後の事を考えた子どもの事を考えると、
とてもやりきれない、悲しい気持ちになる。

明るい未来を夢見て欲しくても、
それを許さない現実があることも事実なのを
私達医療者は知っている。
だからこそ、
真摯に小さな命に向き合いたい。

そうは思っているけれど…
…自分の力の無さが悲しい。

「ご…ごめんなさい。」と立ち上がり、屋上のフェンスに向かって 歩きながら涙を拭いた。

「泣き虫。俺が泣かせてるみたいだろ。」

と後ろからギュッと抱きしめられて、泣き声が出た。

三島さんの腕の中は安心する。

「おーい。お願いだから泣き止んで。
さくらちゃんや、お友達に怒られる。」

と文句を言いながらも、
フェンスの前で私が泣き止むまで、じっと抱きしめてくれていた。


大変申し訳ない。

後から、さくらさんと麦さんが三島さんを問い詰めているのを
止めに入って、何度も三島さんはのせいじゃないと言う羽目になった。
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