【完】こちら王宮学園ロイヤル部
「……椛先輩って。
南々先輩のこと、好きですか?」
「……その好きはどういう意味で?」
「強いて言うなら恋愛感情として聞いてます」
強いて言うなら、というよりは本当に恋愛感情として聞いているんだけど。
それをあえて付け足したのは、椛先輩が言葉の逃げ道を作れるように。言い訳できるように。
「……別に恋愛感情として好きではねえけど、」
椛先輩がカフェオレのストローに、口をつける。
それからちらっと俺を見た彼は、「好きになりそうだなあって思う」とつぶやいた。
え。……え?好きになりそう?
聞いといてなんだけど、まさかそんな返事がかえってくるとは思ってもいなかった。
「このあいだ、プレイボーイなの?って聞かれた日あったじゃん。
あの日……心配だって言われたの、結構グッときたんだよねえ」
「、」
「……ただ純粋に心配されたのがうれしかったっていうのもあるんだけど。
ふいうちだったし、そういう何気ないこと言ってくれる子っていなかったから、いいなあって思ったのはほんと」
椛先輩の視線の先は、がっつり窓の外。
ふたりが動き出そうとするのが見えて、俺も手元のカフェオレに口をつけた。普段紅茶を好んでいるから、どこにでも売ってるカフェオレなのになんとなくひさしぶりの味だ。
「俺こう見えて単純だから。
案外、何気ないことでころっといくかもねえ」
さて行こうか、と。
視線の先のふたりが動き始めるのを見て言う椛先輩に、さからうこともなく俺も席を立つ。
「いっちゃんにはナイショにしてよ?」って。
笑った彼の言葉が、ふたりを尾行する間ずっと、ぐるぐるとあたまのなかをひたすらに回るばかりだった。