【完】こちら王宮学園ロイヤル部
いつみ先輩にしては、なんだか頼りない言葉だった気がする。
だからわたしはそれを覆うように「はい」と返した。
タイムリミットまではまだもう少しある。
海外に行くことは決めてあるのだけれど、そういえばどこで暮らすんだろうか。ゆっくりしたいと言っていたし、どこかの島……とか?
「綺麗ですね、花火」
「……そうだな」
いつみ先輩の手が、そっとわたしの頭を撫でる。
その手を振り払うことだってできたけれど、ただじっとして、色が飛び交うその瞬間を見つめていた。
「姫、線香花火しようってさ〜」
その言葉でゆるりと、顔を上げる。
同時に先輩が手を離して、「呼ばれたぞ」と微笑む。──味気なかった夏の夜の、ほんの一瞬の出来事だけれど。
「いつみ先輩も一緒にしましょうよ。
……勝負して、わたしが勝ったら何か先輩の秘密教えてください」
「ふうん?
俺が勝ったらキスでもしてくれるのか?」
「しません」
知りたいの。その漆黒の瞳が抱えるもの。
きっとわたしじゃどうすることもできないのに、絶対王者のそばで、今は。
「……でも。
頰にくらいなら、してもいいですよ」
「……逆にもどかしくして煽るのはナシだろ」
あっけなく結末を終わらせたくない。
足掻くなんて選択肢、わたしの中にははじめから存在しないけれど。……それでもその先を知りたいと思うのは、間違いだろうか。