【完】こちら王宮学園ロイヤル部
「何か淹れましょうか?」
顔が見える対面式のキッチン。
パソコンの液晶を見据えている彼に、「あ、コーヒー以外で」と言えば彼は一度視線を上げた。どうやらコーヒーと言うつもりだったらしいけど。
「こんな時間まで起きて仕事してる人にコーヒーは淹れません」
「……お前夕帆に似てきたんじゃないか?」
「ありがとうございます」
「……褒めてねえよ」
小さくため息のようなものを吐き出した先輩。
それでも疲れているだろうし好きなものが飲みたいだろうと、結局ブラックコーヒーを淹れてあげた。……チョコレート付きで。
「せっかくのご褒美旅行なんですから、
仕事持ってこなくてよかったんじゃないですか?」
1泊2日だし、明日……もう今日か。
今日の午後には、学校に帰るわけで。そこまで頑張らなくてもいいのに、と思いながら、彼のパソコンの脇にコーヒーを置く。
水を飲むつもりだったけれどついで淹れたカフェオレを自分の前に置いて、ソファに腰を下ろした。
お礼を言ってからコーヒーに口をつけた彼が、「色々あるんだよ」とさっきと同じ言葉で誤魔化す。
なんだかそれが納得できなくて。
同じように自分のソーサーに乗せてきたチョコレートの包み紙を開いてチョコを口に入れると、眉間を寄せた。
「色々ってなんですか。
……先輩、そうやってたまに誤魔化しますよね」
口の中に甘さが広がる。
寝る前に歯磨きしたのに、こんな時間にチョコを食べたら意味がない。……部屋にもどったら、ベッドに入る前にせめてうがいをしてから寝ないと。
「誤魔化してねえよ。
お前らに言う必要があることは伝えてるし、言う必要がねえから言ってないだけだ」