【完】こちら王宮学園ロイヤル部
「……拗ねてる?」
わたしの中では腑に落ちたけれど、今度は彼がその言葉に納得できなかったらしい。
首をかしげる姿が、メガネをしているせいかいつもと異なって見えて、胸の奥がかすかに引きつった。
「……先輩、何も言ってくれないじゃないですか。
わたしには頼れだの甘えろだの、なんだかんだ甘やかしてもらってますけど。先輩はいつも自分で全部解決してしまうので」
「………」
「わたしだって頼って欲しいんですよ。
だから拗ねてます。寂しいじゃないですか」
カチャ、と彼がメガネを置く。
何もない方がやっぱりいつみ先輩らしいなと思っていたら、彼は不意にソファを立った。それからなぜかわたしの隣に腰掛けて。
「南々瀬」と紡がれる声が、やたらと甘い。
「……なんですか」
一応拗ねてますアピールとして、声を不機嫌にしてみるけれど。
先輩はそんなの何でもないように小さく笑ったかと思うと、おもむろにわたしの肩に寄りかかるようにして頭を乗せた。
「……先輩?」
「いいんだろ? 甘えても」
「、」
……頼って欲しいとは言ったけど。
甘えて欲しいとは言ってない。だけどこんな風にいつみ先輩のテリトリーに入れてもらえることはめずらしくて、文句を言えなくなる。
口をつぐんだわたしの首筋に顔を寄せながら、
先輩はもう一度「南々瀬」とわたしを呼んだ。