【完】こちら王宮学園ロイヤル部



「ひゃ、っ……」



腕をつかまれて、バランスを崩す。

ばっと振り返れば呆れたようにため息をついた先輩が、わたしの返したカーディガンをベッドに放って空いた手で器用に膝を掬った。



「っ……」



そのせいで、お姫様抱っこされるような形になって。

冷めない熱がくすぶる。心臓が痛い。



「……悪いけど、今日は逃してやらねえ。

強引に泣かせてでも吐かせるからな」



ベッドに沈む身体。

熱い肌とは対照的な、冷たいシーツ。



押し倒されていることに気づいた時には、じわりと瞳に涙がにじむ。

わかってたことだ。どれだけ逃げたって彼を好きである以上、隠した奥にある本心は彼に反応してしまう。逃げる気なんて、本心にはたぶん無い。




ギシ、と妖しい音を立てて軋むベッド。

見上げた視線の先には、いつみ先輩。



「いつみ、せんぱ、っ……」



近さに戸惑う間も無く、くちびるが触れた。



先輩の匂いが近すぎて、わけのわからない何かに足元をすくわれる。

彼のカーディガンはつい先ほど返したはずなのに、数時間で自分自身に染み付いた彼の匂いに、思考が熱でおかしくなる。



「安心しろよ。何にも邪魔されねえ。

……だから素直に、俺の質問に答えればいい」



「っ、」



そしたら離れてやるよ、と。

悪魔のような囁きに、惑わされる。



< 467 / 655 >

この作品をシェア

pagetop