【完】こちら王宮学園ロイヤル部
時刻は23時前。
場所は一等地に建てられた、セキュリティが頑丈すぎる最高級の城の中。
「それとも……
このまま、俺に好きにされる方がいいか?」
燃えるような熱さで全身を染め上げて。
どうしてこうなったんだろうと、つとめて冷静に自分の記憶をさかのぼる。
「答えろよ、南々瀬」
「せ、んぱい」
「簡単なことだろ?」
好きな男の名前? そんなの、いつみ先輩だ。
気持ちを認めたって好きな人の名前を答えたって、どちらにせよわたしが先輩を好きだという事実を変えられない。変える術もない。
「……なあ」
「ッ、」
触れただけで溶けてしまいそうな粉雪に、そっと触れるみたいに。
優しすぎる指先で頬を撫でられて、鼓動が大きすぎるせいで、耳鳴りみたいに聴こえる。
「……俺は何度もお前に伝えてる。
言葉でも態度でも、お前のことが好きだって」
甘くて優しくてやわらかい言葉で。
なのになぜか、ひどく切なくて、怖かった。
「……なのにお前は本心を話してくれないのか?」
先輩に、もう知ってるような態度で迫られても尚。
開けられなかった感情の箱を、開けられそうになる。頑丈にかけたはずの鍵を、優しい言葉で溶かされていくような錯覚に陥る。