あなたは誰にバツを与えたいですか?
 わたしは本を閉じると、ため息を吐いた。
 もう学校が終わり、三十分が経過していた。その間、わたしは図書室で時間を潰していた。
 クラスメイトと顔を合わせたくなかったためだ。

 昼休みずっと戻らなかったわたしに、あんなことができるわけがない。
 だが、教室の鍵が開いていたことが、わたしの否定の言葉をむなしくさせていた。
 誰があんなことをしたんだろう。
 誰かが最後にしめて、真っ先に教室に帰って、そのどちらかの時間で横原さんの財布をわたしに鞄の中に忍び込ませた。どちらも可能と言えば可能だ。一分足らずでできるのだから。

 だが、クラスメイトのほとんどを敵に回したわたしには難しかった。

 わたしは身支度を整えると、図書室を出た。そして、誰もいない靴箱で靴を履き替えると今度は上履きを鞄の中に片づけた。賑やかな運動場を足早に通り過ぎたとき、門のところに見覚えのある女子生徒が経っているのに気付いた。

 この子は誰だろう。

 割と記憶力はいいほうだが、わたしはすぐに彼女が誰なのか分からなかった。

「浦川永和」

 彼女はぽつりと自分の名前を告げた。

 そうだった。確かそんな名前で、隣のクラスの子だ。

「最近、何かあった? 大変そうだね」
「まあね。でも、わたしとあまり話をしないほうがいいと思うよ」

 薄々、他のクラスの友人も何があったか察しているようで、みんなわたしと距離を取るようになっていたのだ。
 それはそれで仕方ないことだとは分かっていた。
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