不埒な専務はおねだーりん

「子供の頃の専務ってどんな感じだったのか?」

浜井さんは猫舌らしく熱々のコーヒーにふうふうと息を吹きかけ冷ましていた。

「そうですね……。基本的には今とあまり変わりませんよ?好奇心旺盛で、自分に正直で、その上気まぐれで……。勝手にお屋敷を抜け出してうちに遊びに来たり、挙句の果てに迷子になったり。お兄ちゃんなんか随分と連れ回されていましたよ」

あまりにも危なっかしいから途中からお兄ちゃんが、篤典さんのお目付け役に任命されたんだよね。

おかげで、宇田川夫妻のご厚意で高校・大学と篤典さんと同じ学校に通わせてもらってお母さんは随分恐縮していたっけ。

「はあ……大変だったのねえ……」

「そんなことないですよ!!私達は恵まれてるんです。昔から仕事をする母にくっついてお屋敷に出入りしていたおかげで、本来なら話すことも叶わない専務とも仲良くなれて……こうして秘書というお仕事も経験することができましたし……」

「かずさちゃん……」

お涙頂戴の感動系の話をしたつもりは全くないのだが、何かが浜井さんの琴線に触れたらしい。

涙目になり鼻をすすり始めた浜井さんにティッシュを手渡すと、ずびーと鼻をかむ音が秘書室に響く。

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