不埒な専務はおねだーりん
「かずさ、浜井くん、ちょっとおいで〜」
普段なら用があるときは内線を使う篤典さんが、私達を呼ぶために執務室の扉を開いて手招きをする。
何事かと2人で顔を見合わせながら、執務室の中に入ると夢のような光景が広がっていた。
「わあ、ケーキがたくさん!!」
「来年のスプリングフェアで売るケーキの試作品を持ってきてもらったんだ。どれでも好きなものを食べていいよ」
宇田川城に出店しているパティスリーはどこも有名店である。
超一流パティシエが腕によりをかけて作った新作ケーキはどれもこれも美味しそうだ。
「じゃあ、これ。いただきます」
どれにしようか迷っていると、一足早く浜井さんが色鮮やかな抹茶ムースを紙皿にのせた。
「かずさはイチゴだろ?」
篤典さんはそう言ってイチゴとチョコレートのケーキを私に渡してくれた。
(どうしてわかったんだろう……)
私の好みをピタリと当てるとは、さすがとしか言いようがない。
「浜井くんばかりかずさが淹れてくれたコーヒーを飲むなんてずるいよ。僕のところにも後で持ってきてくれるかい?」
「はい、専務」
どうやら、コーヒーの匂いは執務室にまで届いていたらしい。
仲間ハズレにされて膨れた専務のご機嫌をとるのが、私の次のお仕事になるのであった。