わたし、結婚するんですか?
「今日、俺と寝てみるか、と言ったんだ」

 いやいやいやいやっ。

 なにを言い出したんですかっ、この人はっ、とラグの上に手をついて、逃げ腰になりながら洸は思う。

「もういいだろう」

「よくありませんっ」

「お前にとっては、付き合い始めてすぐかもしれないが――」

 いやいやいやっ、付き合った覚えも記憶もありませんしっ。

「俺はもう随分待ったんだ。
 褒めて欲しいくらいだ」

 褒めますから、帰ってくださいっ、とテーブルの向こうの遥久がこちらに来ようとしたので逃げようとする。

 すぐに腕をつかまれてしまったが。

「百万年呪いますっ」
と洸が叫ぶと、

「百万年、俺の記憶が消えないのなら、それでもいいぞ」

 そう遥久が言ってきて、ちょっと胸が痛んだ。

 そうか。
 本当に恋人同士だったのなら、相手に忘れられるほど辛いことはないよな、と思う。

 しゅんとすると、逆に遥久は手を止めた。

「……どうした?」
と訊いてくる。
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