わたし、結婚するんですか?
 いやいや、課長。

 そんな風な言い方されると、余計、不安になるんですけど……。

 『今』とか限定しないでください。

 この先の未来はないみたいな感じがするので、と思ったが、恐らく、遥久はそういう意味で言っているのではなかった。

 だが、疑心暗鬼になっている洸には、なにもかもが疑わしく聞こえる。

 一度疑い始めたら、止まらない。

 ……だからか、と洸は気がついた。

 だから、私は落ちた弾みにすべてを忘れようと思ったんだ。

 なんのわだかまりもなく、ただただ、課長を好きでいられた頃に戻りたくて――。

 洸はぺこりと章浩に頭を下げると、そのまま社長室から出て行こうとした。

「待て、洸っ」
と遥久が呼び止めようとする。

 扉に手をかけた洸は振り返り、
「悠木課長、貴方に私の行動を制限する権利はありません」
と言い捨てた。

 立ち上がりかけた遥久が動きを止める。

 洸は扉を開けると、おそらく、一連の騒動がなんとなく聞こえていたのだろう室長と酒木(さかき)に頭を下げ、廊下へと出て行った。





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