わたし、結婚するんですか?
「本当か? 洸。
 他に好きな指輪があるのなら言え。

 お前が欲しいと思う物なら、どんなものでも手に入れてやる。

 お前がずっと俺との愛の証にはめていてくれるのなら」

 うっかり指輪を外して街を歩いて、他の男に言い寄られたりしてはかなわないからな、と思いながら、遥久は言った。

「いざとなったら、じいさんの遺産をつぎ込んででも。

 いや、まだ死んではいないが……」
と言う自分の目つきに、洸は、

「今すぐ、遺産を発生させる事態にしないでください……」
と怯えたように言ってきた。

 ホープダイヤとか、美術館とかに展示されてる指輪とかがいいとか言い出したら、どうしよう。

 俺は怪盗になれるだろうか。

 子どもの頃、アルセーヌ・ルパンは公民館の図書室でむさぼるように読んだが、というところまで、頭の中は行っていた。

 早く洸と結婚して落ち着かねば、自分がなにをするかわからない、と思っていた。

 こんな正気を失わせるものが恋だと言うのなら、俺はやっぱり、今まで、恋なんてしてなかったんだな、とあのとき、改めて思ったのだった。






< 357 / 368 >

この作品をシェア

pagetop