臆病者で何が悪い!


「朝から、悪いな」

「ううん。大丈夫」

とりあえず部屋の目につく部分はなんとかなった。着替えもしたし、顔も軽くパウダーをはたくくらいのことは出来た。玄関に現れた生田はノーネクタイのスーツ姿で、本当に職場からそのままここに来たのだと分かる。

「職場では会っていても、ほとんど話せねーし。電話も出来なかったしな。二週間もあんたとまともに話してなかったから」

「うん」

目の下にはうっすら黒い影。ぱりっと着こなしているスーツすら、少し疲れて見える。
いくら深夜に及ぶ仕事に慣れているとはいえ、楽なはずはない。

「内野のその顔見たら、ちょっと生き返った。いくら職場では毎日会えていても、こうして二人きりじゃないと会った気がしないもんだな」

そう表情を緩めると、生田が鞄の持ち手を握り直した。

「……じゃあ、帰る。突然押し掛けて来てごめん」

そう言って私の頭をぽんぽんと叩くと、そのまま身体を翻した。

「ちょ、ちょっと待って」

「……ん?」

生田が私に振り返った。やっぱり、その顔は疲れが滲んでいた。

「徹夜明けでそのままここに来て、またこれから帰るの大変でしょ? よ、よかったら少し休んで行きなよ」

「……でも」

「少しは掃除したし、大丈夫だよ!」

少し大きな声でそう言うと、生田が笑った。

「うん。じゃあ、そうする」

その笑顔を見て、最初からそう言えばよかったのだと思った。

「なんか……ある意味イメージ通りの部屋だな」

「ちょ、ちょっと、あんまりじろじろ見ないでっ」

私のごちゃごちゃとした部屋に生田がいる。その光景が、なんだか信じられない。背の高い生田がそこにいるだけで、もう私の部屋はいっぱいいっぱいだ。

「ん? 『冷徹上司は私だけの王子様』……、これ『上司』のところ『同期』にした方が面白そうだぞ――」

「ぎゃっ、勝手に見ないで。勝手にタイトル読み上げないでっ!」

私の本棚を覗き込んでいる生田の前に入り込み、本棚を自分の身体で隠す。

「なんだよ。内野だって、俺の本棚勝手に見てたじゃないか」

「生田はいいでしょ、ご立派な本ばかりだったんだから。私の本棚はとてもじゃないけど見せられない」

本棚の中のものにまで気を回す余裕がなかった。だから、こうして必死で両手を広げるしかない。

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