臆病者で何が悪い!


「……分かった。見ないよ」

そう言うと不意に私を抱きしめた。

「ちょ、ちょっ……」

「あんたの方から俺に突進して来たんだろ」

「そ、それは、本棚を隠すためであって……っ」

あたふたとしたけれど、生田の抱擁は、優しく腕を回しただけのものだった。

「……やっぱり、今日顔見に来て良かった」

「うん。お疲れ様」

おそるおそる生田の背中に手を回す。そして、そっと手のひらをあてた。

「え、えっと……。とりあえず寝たら? 私のベッドでよければ貸すよ」

「……いい、のか?」

生田の声に、頷く。

「本当は、もう立ってるのだって辛いくせに」

生田の腕の中で、そう言葉をこぼす。

「――確かに、疲れた。じゃあ、少し寝かせてもらおうかな」

私から身体を離すと、眠そうな顔で微笑んだ。

それから。生田は、あっという間に寝てしまった。
それもそうだ。一睡もせずに、今朝の9時まで働いていたんだから。

生田から預かったスーツのジャケットをハンガーにかける。眠るには部屋が明るすぎるのではないかと思っていたけれど、そんなことも気にならないのか生田は深く寝入っていた。

そっとカーテンを閉め、ベッド脇に腰を下ろす。

生田の寝顔なんて見たの、初めてだ……。

目を閉じた顔は、無防備だからか疲れがそのまま顔に出ていた。ボタンをはずしたシャツの隙間からは鎖骨が見え、そして視線をたどるとわずかに動く喉仏が見える。

男の人。生田は、男の人なんだ。

私、これってきっと、凄く大事にされているんだよね――。

でも、こうして優しくされればされるほどに分からなくなる。どうして、私なんだって。解けない謎が常に私にまとわりつく。

そして、優しくされるほどに、昔の恋を思い出す。
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