臆病者で何が悪い!
「あ……、ごめん。今、何時……?」
キッチンで夕飯を準備していたら、背後から物音と共に生田の声がした。
「起きた? 今ね、夕方の5時だよ」
「5時? そんなに寝てたのか。起こしてくれればよかったのに。少し仮眠しようと思ってただけだったんだけど……。悪い」
ベッドから起き上がった生田が慌てて布団から這い出ようとしていた。
「凄く深い眠りだったみたいだよ? 全然起きる気配なかったもん。だから、そのまま寝かせておいた」
包丁の手を止めて、生田の元に駆け寄る。
「少しは、疲れ取れた?」
ベッドに腰掛けた生田の傍に立ち、その顔を確認する。
「ああ。おかげさまで、久しぶりにこんなに熟睡したってくらい。身体が軽くなったよ。でも、こんな時間まで、迷惑かけたな」
前髪をかき上げて私を見つめる。たったそれだけの仕草に、なぜか胸の奥がどくっと跳ねた。
「迷惑なんて思ってないから。それより、お腹空いたよね? 何も食べてないでしょ? 生田ほどの腕前ではないけど、適当に夕飯作ってるから。ちょっと待ってて」
跳ねた胸について深く向き合いたくないから、逃げるようにキッチンへと向かう。
「……ありがとう」
背後で、生田の声がして。振り向くことなく「ううん」と言った。
「ごめん。顔洗わせてもらってもいいか?」
「気付かなくてごめん。こっち、使って」
不意に間近から声がしたと思ったら、生田がすぐ隣に立っていた。
慌てて少しのけぞる。急にまた緊張してきた。
生田との接近は未だに慣れない。キッチン脇にある洗面所に連れて行く。
「タオル、これ」
棚から出したタオルを手渡し、そそくさとキッチンへと戻る。この、密室に二人というのが、苦手なのだ。
早いとこ、料理を仕上げてしまおう。料理、と言ってもカレーなんだけれど。
「おっ、美味そう」
「わっ」
すぐ隣からひょっこり生田の顔が現れる。
いつの間に――。
「す、すっきりした?」
「うん。生き返った。というわけで、俺も手伝おうか?」
さっきよりもさっぱりとした顔で見つめて来るから。それはそれで、また緊張する。
「いいよ。ただのカレーだし。もう出来るし。生田はあっちで待ってて」
「はいはい」
追いやるみたいな形になってしまったけれど、別にこれといってやってもらうこともない。それに、今はちょっと心を落ち着けたい。