臆病者で何が悪い!




結局、その夜は国会からの質問の内容が私の係にどんぴしゃりと該当するもので、課内の中でも最後まで残ることになった。

周囲を見渡しても、課長をはじめとした上の方の職員と私の係の係員のみだった。
田崎さんの配慮もあり、なんとか終電に間に合う時間には解放してくれた。

足早に庁舎を出る。
急いで駅へと向かったら、最終電車が来るまでに五分ほど時間に余裕があった。

生田は、もう家に着いているはずだよね。
でも、寝ちゃったかな……。せっかく寝付いたところ起こしたら申し訳ないないし。

手にしたスマホをじいっと見つめる。

どうしようーー。
こうして迷っている間にも電車が来てしまう。

でも!

やっぱり、今日のうちに生田に伝えたい。
生田と話したい。
心を決めてスマホに『生田眞【職場 同期】』を表示させた。

呼び出し音が鳴る。
4コール、5コールと過ぎて行く。

やっぱり寝てるのかもーー。

そう思えて、切ろうとスマホを耳から離した時、私に呼び掛ける声が飛び込んで来た。

(内野っ!)

「あっ、ごめんね。寝てた?」

思いのほか大きな声で、びっくりする。

(いや、ちょうど風呂入ってて。間に合って良かった。今、家?)

焦ったような声に、本当に慌ててこの電話を取ってくれたのだと思える。

「ううん、電車待ってるところ。遅くにごめん。電話しようかどうか迷ったんだけど――」

(時間なんて気にするな。おまえの電話だったら、いつだって別に迷惑だなんて思わない。分かったか?)

「うん……」

電話一つするのにも、知らぬうちに緊張していた。何を話そうかと考えているうちに、もうすぐ電車が来てしまう。

(おまえから電話して来たの、初めてだな……)

焦っていると、生田の優しげな声がした。

「そう、かもしれない……」

(そうだよ。メールも電話もして来たことない)

いつまで経っても、付き合っているという意識が希薄だったのだ。

(少なくとも今日は、おまえの頭に俺が浮かんだってことだよな。少しは進歩したのかな……)

そんなこと――。生田が思っているよりずっと、私は生田のことを考えてもいるし、思い出してもいるよ……。

「今日のことで生田と話したいって思って、電話したの」

――まもなく1番ホームに電車がまいります。

「あっ、電車が来ちゃうから言うね」

地下鉄の走行音が近付いて、少しずつ駅構内に響く。

「京子のことだけど、私、こういう状況になんかなったことなくて動揺して。仮にも同期だし、傷付けたことに申し訳ないなんて、傲慢なことを思っちゃって」

(ホントにおまえは律儀な人間だな。同期ったって、おまえと香川はたいして親しいわけじゃないだろ?
そこまで深く考えてやる必要があるのかって思うよ。そんなにいろんな人の心に寄り添ってたら、身がもたない)

生田の声にじっと耳を傾ける。

(だから、おまえのそういうとこ、危なっかしくて放っておけなくなるんだろうな。でも、俺は違うから)

電車の音に掻き消されそうになる声を必死に聞く。

(誰かのためなんて思うのは、全部おまえにだけだから)

「生田!」

もう切らなければならない。だからーー。

「今日、生田が言ってくれたこと、本当に嬉しかった。動揺はしたけど、生田とのこと迷ったりなんてしてないよ。それだけは信じて! それと、あんぱん、ありがと。でも、私を笑顔にしてくれるのは、あんぱんだけじゃないから。生田の方がずっとーー」

ホームに滑り込んで来た地下鉄の扉が開いた。
そして、発車を知らせるベルが響き渡る。

「 ご、ごめん、もう切らないと。おやすみ!」

最後の方は一方的に叫んだだけだったけれど、ちゃんと届いたかな。

私の中で、生田の存在がとっても大きいってこと。

生田に、ちゃんと届いてほしい。

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