臆病者で何が悪い!
「生田さん、係長昇任、おめでとうございます!」
翌週の月曜日、1月1日付の人事異動の内示が発表された。生田は、同じ係のままで係長に昇任するらしい。だから、翌年も、とりあえず生田とは同じ課のままということになる。
「ありがとうございます」
派遣職員の宮前さんが、早速生田の元へとさりげなく来ていた。宮前さんは、自分のことのようにキャッキャとはしゃいでいる。
「同じ係のまま昇任とかやめてくれよ。これまで先輩だったのに、俺、来年からおまえの部下になんの? どっか、異動してから昇任すればいいものを……」
生田の隣に座る職員がぶうたれている。
「別に、俺が決めたことじゃないんで」
私の背後で繰り広げられている会話が耳に入って来る。まあ、そろそろ生田が係長になることは分かっていたことなわけであって。それでも、周囲の人たちはやんやんと騒いでいた。そんな騒ぎを他人事のように聞いている生田は、やっぱり生田だ。
「あのぉ、うちの課の若手の職員の皆さんで、生田さんの昇任祝いをするっていうのはどうですか?」
え――?
思わず声に出してしまいそうになって慌てて口を噤む。
宮前さん、派遣さんなのに、すっごいなぁ……。
普通、派遣職員の人の場合、職場の飲み会には呼ばれて参加する、というスタンスの人が多い。それを、自ら提案するなんて。
手に入れたいものは取りに行く――。そんな感じがひしひしと伝わって来る。
それを、今までとは違う気分で聞いている自分がいる。なんだか少し、落ち着かない。
「え? ああ、宮前さんも来てくれるっていうならやってもいいよ? いつにする――」
「気持ちだけで。ああ、でも俺にお構いなく、どうぞ飲み会でもなんでもやってください」
乗り気になった隣の席の職員の声を、生田が遮った。あまりにも素っ気ない言葉に、こちらの方がひやりとする。生田は、そのままどこかに行ってしまったみたいだ。まあ、生田は、昇任したからって別に喜ぶようなタイプでもないよな。既定路線のことと言えばそれまでだし。
「相変わらずのノリの悪さだな。生田のことは気にせず、せっかくだし、忘年会でもします?」
「……え? い、いえ、またの機会に」
急にテンションが下がったかのように、宮前さんはさぁっと引いて行った。それにしても、生田はモテるなぁ。あんなに愛想ないのに。
あんなに素っ気なくても女を引き寄せてしまう人、一体どうすりゃいいの?
むしろあの素っ気なさが余計に私の不安を大きくする。生田に寄って来る女性って、皆、レベルが高い気がするからだ。ビアガーデンで声を掛けて来たOLたち、京子、宮前さん――。ある程度自分に自信がないと自分から行けないでしょ。あんな、とりつくしまのない男。それって、私的には不安要素が増えるわけで。
美女が寄って来て嬉しくない男って存在するのか?
私みたいな女には、難易度が高すぎる男なのでは……?
どうしたって、近づいて来る美女と自分を比べてしまう。そう考えると、もう少し普通でもいいなんて思ってしまった。
正直なところ、私はイケメンは苦手だった。そもそも不釣合いだと引け目を感じて落ち着かないし、心配ばかりで身が持たない。